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NORTHERN 北へ (小樽篇)

断続的なトンネルが続く海岸線の道を走る。函館から小樽へと、映画のコマ落としのように瞬時に光と闇が交差する風景を操上和美はふと懐かしむ。自分の北の原風景の記憶がふと蘇る。ノスタルジーの時間であった。
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自分の存在証明としての写真


写真家・操上和美(くりがみかずみ)が自分の心象風景を記録した『NORTHERN』という2002年の写真集がある。世界的な写真家・ロバート・フランクは『NORTHERN』を「何もない北の原野、それゆえに愛おしい」と言った。ロバート・フランクの影響を受けたもう一人の写真家・荒木経惟(あらきのぶよし)によると、北を表した操上和美の最高傑作だと言う。
「郷愁を捨て全感覚をオープンにして移動を記録する。『NORTHERN』は操上にとって真実そのものだ」
荒木のいう真実を、操上はすくったとたん手からこぼれる水のようだと笑った。
今は観光名所となった小樽の赤森倉庫街を行く。江戸時代の外人居留地は明治には船場となって栄え、異国情緒の面影を残した赤レンガの建物を今に伝える。路地裏に古い鉄の扉を見つけると操上は夢中でシャッターを切っていく。
「自分の影に向かってシャッターを切っていることはもとより、何か心のありようを予想してシャッターを切っているような気もする。写真は過去ではなく未来を表すこともある」

そしてまた一枚シャッターを切る。操上は続ける。
「それが写真であり、それが旅の楽しみでもある」
扉に写る彼の影は写真の中で永遠の時を得て終わりなき旅を続けている。倉庫近くの港にはいくつもの小さな舟が停泊して、地元の人が釣り糸を垂らしている。日常の中にふと入り込む。桟橋のアスファルトに操上の長い影を曳く。

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